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東京地方裁判所 平成元年(特わ)344号 判決

本籍

東京都江東区永代一丁目四番地一〇

住居

同都同区東陽五丁目二三番六-一〇七号

会社役員

小川政保

昭和八年一〇月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都江東区東陽町五丁目二三番六-一〇七号に居住し、同区東陽一丁目三一番七号に事務所を設置して「小川製印所」の屋号で印章の製造販売業を営むかたわら、営利の目的で継続的に有価証券売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部及び右有価証券売買による全ての利益をそれぞれ除外する等の方法により、所得を隠匿した上

第一  昭和五九年分の実際総所得金額が九二七八万九七六八円あった(別紙1同五九年分の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六〇年三月一二日、東京都江東区猿江二丁目一六番一二号所轄江東西税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が一三六四万四九二円でこれに対する所得税額が三三〇万四一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成元年押第四六七号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同五九年分の正規の所得税額五二〇〇万四〇〇円と右申告税額との差額四八六九万六三〇〇円(別紙2同五九年分の脱税額計算書参照)を免れ

第二  同六〇年分の実際総所得金額が一億二二四五万六六四四円あった(別紙3同六〇年分の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六一年三月一四日、前記江東西税務署において、同税務署長に対し、同六〇年分の総所得金額が一五一二万六四〇七円でこれに対する所得税額が三九一万六五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同六〇年分の正規の所得税額七二六八万五〇〇円と右申告税額との差額六八七六万四〇〇〇円(別紙4同六〇年分の脱税額計算書参照)を免れ

第三  同六一年分の実際総所得金額が一億八三三五万一〇七八円あった(別紙5同六一年分の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同六二年三月一六日、前記江東西税務署において、同税務所長に対し、同六一年分の総所得金額が九〇四万三七八二円でこれに対する所得税額が一五六万九五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同六一年分の正規の所得税額一億一五三二万二四〇〇円と右申告税額との差額一億一三七五万二九〇〇円(別紙6同六一年分の脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の目標)

判示事実全部につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  小川和子の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上金額調査書

2  収入金額調査書

3  接待交際費調査書

4  消耗品費調査書

5  減価償却費調査書

6  福利厚生費調査書

7  給料賃金調査書

8  賃借料調査書

9  税理士報酬調査書

10  雑費調査書

11  青色専従者給与調査書

12  事業専従者控除調査書

13  株式売買益調査書

14  支払手数料調査書

15  株式売買経費調査書

一  江東西税務署長作成の「証明書」、「証拠品提出書」と題する各書面

判示第一、第二の各事実につき

一  収税官吏作成の青色申告控除額調査書(不動産所得)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の収入金額調査書(不動産所得)

一  押収してある昭和五九年分の所得税確定申告書一通(平成元年押第四六七号の1)、昭和五九年分の所得税青色申告決算書一冊(同号の4)

判示第二、第三の各事実につき

一  収税官吏作成の車両関係費調査書、外注工賃調査書

判示第二の事実につき

一  押収してある同六〇年分の所得税確定申告書一通(同号の2)、同年分の所得税青色申告決算書一冊(同号の5)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  修繕費調査書

2  利子割引料調査書

3  青色申告控除額調査書

4  支払利息調査書

一  押収してある同六一年分の所得税確定申告書一通(同号の3)、同年分の所得税青色申告決算書一冊(同号の6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は所得税法二三八条一項に各該当するので、いずれも所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、その罰金の額についてはいずれも情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条一項によりこれを右懲役刑と併科することとし、同条二項により判示各罪の右罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、印章の製造販売業を営むかたわら、有価証券売買により多額の利益を得ていた被告人が、判示のとおり昭和五九年から同六一年までの三年度にわたって合計二億三一〇〇万円余りという巨額の所得税を免れたという事実であって、右脱税のほ脱率も平均すると約九六パーセントと極めて高率であり、その動機も単に将来に備えて資産を形成しようとしたためにすぎないのであって斟酌すべき点などはなく、その手口は印章製造販売の売上の一部を除外し、それによって得たいわゆる裏資金をひんぱんに有価証券売買に投資した上、その所得を全く申告しないなど甚だ芳しくないものであり、これらの諸点からすれば、被告人の刑責は重いと言わざるを得ないが、他方、被告人は、その後修正申告の上、本件に関する本税、重加算税等を完納していること、国税当局の査察後、その非を深く反省、悔悟するとともに経理体制も改善していること、被告人には前科、前歴がないことなどの諸事情も認められ、その他被告人の家庭環境等本件全証拠から推認される被告人のため酌むべき一切の情状を考慮して懲役刑についてはその執行を猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 反町宏 裁判官 髙麗邦彦 裁判官 山田明)

別紙1

修正損益計算書

小川政保

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

〈省略〉

別紙2 脱税額計算書

59年分 小川政保

〈省略〉

別紙3

修正損益計算書

小川政保

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

〈省略〉

別紙4 脱税額計算書

60年分 小川政保

〈省略〉

別紙5

修正損益計算書

小川政保

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

〈省略〉

別紙6 脱税額計算書

61年分 小川政保

〈省略〉

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